コメ価格高騰の動向分析と今後の展望:「令和の米騒動」の要因と収束予測


 

コメ価格高騰の動向分析と今後の展望:「令和の米騒動」の要因と収束予測

1. エグゼクティブサマリー

2024年半ば以降、日本の米価格は「令和の米騒動」とも称される前例のない高騰を経験した。本レポートは、この価格急騰の背景にある複合的な要因を分析し、今後の価格動向に関する見通しを提供するものである。

価格高騰の主要因としては、まず2023年夏の記録的な猛暑による米の品質低下が挙げられる。これは作況指数自体が平年並みであったにもかかわらず、精米時の歩留まりを悪化させ、実質的な市場供給量を減少させた 1。加えて、コロナ禍後の経済活動再開に伴う国内の外食・中食需要の回復、およびインバウンド観光客の急増が需要サイドからの圧力を強めた 1。さらに、肥料や燃料を中心とした生産コストの上昇が、生産者価格の基調を押し上げた 6。長年にわたる作付面積調整(減反)政策の遺産ともいえる、需給逼迫に対する緩衝能力の低い供給構造 2、流通経路の変化や一部事業者による買い占め・売り惜しみといった市場の動的な要因も、価格上昇を加速させたと見られる 4

政府は、価格高騰と市場の混乱に対応するため、備蓄米の放出という異例の措置に踏み切った 9。この介入は短期的な価格緩和効果が期待されるものの、その持続性には不確実性が伴う。

今後の見通しとして、米価格は2025年初頭にピークを迎え、同年半ば以降、特に秋の2025年産米の収穫後には、需給バランスの改善に伴い価格が緩和に向かう可能性が高い 3。2025年産米の作付面積拡大意向 11 はこの見通しを支持するが、天候次第で収穫量が変動するリスクは依然として大きい。生産コストの高止まりも、価格が急騰前の水準まで完全に戻ることを抑制する要因となり得る。価格の本格的な安定化は2026年以降になる可能性も視野に入れるべきである 9

2. 日本の米価格の現状:「令和の米騒動」

2024年夏頃から顕在化し、2025年初頭にかけて深刻化した米の価格高騰と供給不安は、社会的な注目を集め「令和の米騒動」と称される事態となった 9。この現象は、単なる市場の変動を超え、国民生活や経済活動に広範な影響を及ぼした。価格上昇は、生産者から卸売業者、そして最終消費者へと、サプライチェーン全体に波及した。

2.1 相対取引価格(生産者・卸間)の高騰

生産者や集荷業者と卸売業者との間で相対的に決定される取引価格(相対取引価格)は、米価全体の基調を示す重要な指標である。令和5年(2023年)産米の段階で既に、堅調な需要を背景に前年産比で10%程度の上昇が見られていた 13。しかし、令和6年(2024年)産米の取引が始まると、価格はさらに急騰した。

農林水産省のデータによると、令和6年産米の相対取引価格は右肩上がりの上昇傾向を示した 9。例えば、令和6年10月の全銘柄平均価格は60kgあたり23,820円となり、前年同月比で57%もの大幅な上昇を記録した 14。特にコシヒカリなどの主要銘柄では25,000円を超える取引も見られた 14。令和7年(2025年)1月には全銘柄平均で25,927円 15、同年3月には備蓄米取引の影響で若干低下したものの、25,876円と依然として高水準を維持し、前年同月比では+10,448円(+68%)という記録的な上昇となった 17

この卸売段階での価格急騰は、後述する2023年産米の品質問題による実質供給減、需要回復、そして流通段階での品薄感を反映したものである。ただし、月々の価格変動を見る際には、政府備蓄米の入札・取引が含まれることによる影響も考慮する必要がある 17

2.2 スポット取引価格(卸間)の異常な高騰

卸売業者間で比較的小ロット・短納期で行われるスポット取引価格は、短期的な需給の逼迫度合いをより敏感に反映する。令和の米騒動においては、このスポット市場での価格高騰が特に顕著であった 9

令和6年産の関東銘柄米を例にとると、その価格は過去に例を見ない水準に達した。2024年9月下期には60kgあたり25,697円(前年同期13,484円)であったものが、同年12月上期には31,152円(同14,451円)へと上昇。さらに年が明けた2025年1月下期には45,391円(同15,440円)、2月下期には46,780円(同16,479円)と、前年比で約3倍近い水準にまで跳ね上がった 9

このようなスポット価格の異常な高騰は、市場における即時的な米の不足感が極めて深刻であったことを示唆している。これは、卸売業者が在庫確保に奔走し、価格を問わず買いに走った結果と考えられる。スポット価格の急騰は、相対取引価格や小売価格の上昇に先行する形で、市場全体の危機感を醸成した。

2.3 小売価格への波及と消費者への影響

卸売価格の上昇は、時間差を伴いながらも確実に小売価格へと転嫁され、消費者の家計を直撃した。総務省統計局の小売物価統計調査によると、米の小売価格は2024年8月以降、急激な上昇カーブを描いた 4

例えば、米5kgの全国平均小売価格は、2024年4月時点では2,228円であったものが、8月には2,650円、9月には3,038円、10月には3,473円と、月を追うごとに大幅に上昇。2025年に入るとさらに加速し、1月には3,828円、2月には4,080円、そして3月には4,378円に達した 4。これは、わずか1年弱で価格がほぼ倍増したことを意味する。東京都区部のコシヒカリ5kgの価格も同様の傾向を示し、2024年12月には4,018円となり、前年同月(2,422円)の1.68倍に達した 3。農林水産省のデータでも、2025年2月時点の米5kg平均店頭価格は3,688円と、2024年の平均(2,018円)から1.5倍以上になっていることが確認されている 10

消費者物価指数(令和2年基準)で見ても、令和7年(2025年)1月の米類の指数は前年同月比で+70.9%(171.3ポイント)と、他の主食群と比較して突出した上昇率を示した 9。この価格高騰は、日常的に米を消費する家庭にとって大きな負担となり、例えば月に5kg程度消費する家庭では、年間で2万円程度の負担増になると試算されている 9

2.4 価格動向の総括

以下の表は、相対取引価格、スポット取引価格(例)、小売価格(例)、および消費者物価指数の推移をまとめたものである。

表1:日本の米価格動向(2024年~2025年初頭)


時期

相対取引価格 (全銘柄平均, 円/60kg)

スポット取引価格 (関東銘柄米, 円/60kg)

小売価格 (全国平均, 5kg, 円)

消費者物価指数 (米類, 対前年同月比 %)

出典例

2024年4月

-

-

2,228

-

4

2024年8月

-

-

2,650

-

4

2024年9月下期

-

25,697

3,038 (9月)

-

4

2024年10月

23,820

25,707 (上期)

3,473

-

4

2024年12月

24,665

31,152 (上期)

3,679

-

4 (12月相対価格はS43より、他はS3,S8,S9より)

2025年1月

25,927

45,391 (下期)

3,828

+70.9%

4

2025年2月

-

46,780 (下期)

4,080

-

4

2025年3月

25,876

-

4,378

-

4

注:価格データは出典により時点や定義が若干異なる場合があるため、傾向把握の参考として利用。スポット価格は一例。

この表からも明らかなように、2024年後半から2025年初頭にかけて、日本の米価格は卸売市場(相対・スポット)から小売市場に至るまで、連鎖的に、かつ急激に上昇した。特にスポット市場での価格の跳ね上がりは、短期的な供給不安がいかに深刻であったかを示している。価格上昇の明確な転換点は2024年8月頃であり、それ以降、上昇ペースが加速したことがわかる 4。この多層的な価格エスカレーションは、一部の市場セグメントにおける一時的な問題ではなく、米の需給バランスや市場心理全体に関わる構造的な要因が作用していたことを強く示唆している。

3. 米価格高騰の要因分析

今回の「令和の米騒動」は、単一の原因によるものではなく、供給、需要、市場、政策といった複数の要因が複雑に絡み合った結果として発生した。

3.1 供給サイドの要因

3.1.1 2023年産米の品質問題(初期トリガー)

価格高騰の直接的な引き金となったのは、2023年(令和5年)産の米を襲った記録的な猛暑である。この年の水稲作況指数は全国平均で101と「平年並み」であった 2。しかし、この数値は収穫量(量)を示すものであり、猛暑は米の「質」に深刻な影響を与えた 1

具体的には、登熟期の高温により、米粒内部に亀裂が入る「胴割れ粒」や、デンプンが十分に蓄積されず白く濁る「乳白粒」などの発生率が例年より高くなった 2。これらの品質が劣る米粒は、精米工程で除去される割合が高くなるため、玄米から実際に市場で流通する白米(精米)を生産できる割合、すなわち「精米歩留まり」が著しく低下した 2。また、整粒(形の整った米粒)の割合が低下したことで、1等米比率も低下し 2、高品質な米の供給量が減少した。

このように、収穫量自体は平年並みでも、猛暑による品質劣化が精米歩留まりを低下させ、結果的に市場に出回る白米の量が想定よりも少なくなったことが、需給逼迫の最初のトリガーとなった。当初、作況指数という量的な指標のみに注目が集まりがちであったため、この質的な問題による実質供給量の減少が見過ごされ、市場の混乱や対応の遅れにつながった可能性がある。

3.1.2 長期的な生産動向と構造的問題

今回の価格高騰の背景には、短期的な天候不順だけでなく、日本の米生産が抱える長期的な構造的問題も存在する。

  • 作付面積調整(減反)政策の影響: 日本では長年にわたり、米の供給過剰と価格下落を防ぐ目的で、作付面積を制限・調整する、いわゆる減反政策が実施されてきた 2。2018年には国による生産数量目標の配分は廃止されたものの 20、依然として飼料用米や麦・大豆など他作物への転作を促す補助金制度は維持されており 2、実質的な生産調整は続いている。この結果、日本の米生産システムは、需要の急増や供給の突発的な減少に対する「遊び」や「緩衝能力」が乏しい状態にあった 2。需給見通しに基づき、過剰在庫を極力持たないような生産計画が立てられてきたため 2、2023年産米の品質問題のような予期せぬ供給ショックに対して脆弱であったと言える。水田面積自体も長期的に減少傾向にある 23

  • 生産者の減少と高齢化: 農業従事者の高齢化と後継者不足は、米生産においても深刻な課題である 5。米価が上昇したにもかかわらず、2024年には農家の倒産件数が過去最多を記録したという報告もあり 24、これは後述する生産コストの高騰が経営を圧迫している状況を示唆している。生産者の減少は、中長期的な国内供給能力の低下懸念につながる。

3.1.3 生産コストの高騰

近年の世界的なインフレや地政学的リスクは、米生産に必要な資材価格を押し上げ、農家経営を圧迫した。

  • 肥料価格の上昇: 肥料原料の国際価格高騰や円安の影響を受け、肥料価格は大幅に上昇した 6。2021年比で+30% 6、2022年には前年比+27.1% 7 といったデータが示すように、肥料費は生産コストの中で大きな割合を占めるため、経営への影響は甚大であった 7。2025年春肥については一部で価格低下が見られたものの 27、依然として歴史的に見れば高水準が続いている 29

  • 燃料価格の上昇: トラクターやコンバインなどの農業機械を動かすための燃料(軽油など)価格も高騰した 6。2021年比で+25% 6、2022年には前年比+13.4% 7 となり、これも生産コストを押し上げる要因となった。燃料価格も高止まり傾向にある 32

  • その他のコスト: 農業機械の維持費 6、種苗費、農薬代、水利費、人件費(該当する場合)など、他の経費も上昇傾向にあり 10、生産コスト全体を増加させた。

以下の表は、10アールあたりの米生産コストの構成要素と、近年の価格変動の状況を示したものである(数値は目安)。

表2:米生産コストの構成要素と変動(10アールあたり、例)


費用項目

2021年頃の目安 (円)

2023/2024年の状況/変動例

出典例

肥料費

10,000前後

大幅上昇 (+30%6, +27%7など)。高止まり傾向 29

6

燃料費(光熱費)

5,000 - 6,000

上昇 (+25%6, +13%7など)。高止まり傾向 32

6

種苗費

6,000 - 18,000

比較的安定

26

農薬代

8,000前後

微増傾向 26

26

機械費(減価償却・修理等)

(変動大)

維持費上昇傾向 (+15%6など)

6

作業委託費(該当する場合)

60,000程度

人件費上昇圧力

31

水利費・その他雑費

13,000程度

比較的安定

26

合計(物財費中心)

約11万~13万円

全体として大幅に上昇

31

注:上記はあくまで目安であり、地域や経営規模、栽培方法によって大きく異なる。人件費や地代は別途考慮が必要。

このように生産コストが上昇したことは、米価が上昇しても必ずしも農家の利益増にはつながらず、むしろ経営を圧迫するケースがあったことを示している 6。これは、市場価格形成においてコストプッシュ要因が働いていたことを意味する。

3.2 需要サイドの要因

3.2.1 ポストコロナの需要回復と変化

長期的に見れば、日本の1人あたり米消費量は減少傾向にある 22。しかし、2024年の価格高騰局面においては、短期的な需要増が供給逼迫感を強める一因となった。

  • 外食・中食・観光需要の増加: 新型コロナウイルス感染症の収束に伴う経済活動の正常化により、外食産業や中食(弁当、惣菜など)産業での米需要が回復した 5。特に、訪日外国人観光客(インバウンド)の急増は、日本食への関心の高まりとともに、業務用米の需要を大きく押し上げた 1。この外部からの需要増は、主に国内消費の漸減を前提としてきた供給体制にとって、想定外の圧力となった可能性がある。

  • 家庭内需要の動向: 家庭での米消費についても、コロナ禍からの回復が見られた 5。また、2024年夏には、南海トラフ地震臨時情報や相次ぐ台風報道を受けて、備蓄目的とみられる一時的な「買い込み需要」が発生し、スーパーマーケットなどでの販売量が急増した 1。このパニック的な購買行動は、店頭での品薄感を助長し、価格上昇心理を煽った側面がある。さらに、他の食料品価格が上昇する中で、当初は米価格の上昇が比較的緩やかであったため、相対的な割安感から需要がシフトした可能性も指摘されている 13

  • 利便性志向の高まり: 単身世帯の増加や高齢化、ライフスタイルの変化を背景に、炊飯の手間が省けるパックご飯(包装米飯)の需要が拡大している 34。これは、原料となる米の需要構造にも変化をもたらしている可能性がある。

3.3 市場および政策要因

3.3.1 在庫水準の低下

需給バランスを示す重要な指標である在庫量も、価格高騰に影響を与えた。

  • 民間在庫の減少: 2023年産米の不作(品質低下による実質減)や需要回復を背景に、流通業者などが保有する民間在庫量は、価格高騰が本格化する前から低水準で推移していた 13。2024年7月末の在庫量は前年同期比で40万トン減少し、近年まれに見る低水準(82万トン)となっていた 18。同年6月末時点の民間在庫量も、農林水産省の見通しを大幅に下回る可能性が指摘されていた 38。このように、市場のバッファーとなる在庫が少なかったことが、供給不安や価格上昇を増幅させる要因となった。

  • 政府備蓄米の存在と役割: 日本政府は、凶作などに備えて一定量(約100万トン規模)の米を備蓄している 18。しかし、この備蓄米は、原則として深刻な不作や災害時などの供給不足が明白な場合に放出されるものであり、平時の価格安定目的での放出は想定されていなかった 10

3.3.2 市場の行動と流通の変化

市場参加者の行動や流通構造の変化も、価格形成に影響を及ぼした。

  • 投機的な動き(買い占め・売り惜しみ): 今後のさらなる価格上昇を見越して、一部の流通業者などが在庫を確保しようと買い急いだり(買い占め)、生産者や集荷業者がより高値で販売できるタイミングを待って出荷を控えたり(売り惜しみ)する動きがあったと指摘されている 4。特に2024年初頭からのインフレ傾向の中で、米価上昇への期待感がこうした投機的な行動を誘発した可能性がある 9

  • 流通経路の変化: 従来のJA(農協)経由の流通に加え、生産者が卸売業者や消費者に直接販売するルートが増加した可能性が指摘されている 9。これにより、JAなどの大手集荷業者が確保できる量が減少し、既存の流通チャネルにおける品薄感を強めた可能性がある。実際に、2024年産米ではJAなどの集荷量が前年比で大幅に減少したとのデータもある 37。また、備蓄米の供給契約を履行しない事業者が出たことも報告されており 39、流通の混乱を示唆している。

  • 米先物取引の影響: 2024年8月に堂島取引所で米の指数先物取引が開始された 4。価格高騰が始まった時期と重なるため、先物市場での投機的な買いが価格上昇を助長したのではないかとの見方も一部で出た 4。しかし、取引対象が特定の銘柄ではなく指数に限定されていること 18、取引規模などを考慮すると、その影響は限定的であった可能性が高い。むしろ、価格発見機能やリスクヘッジ手段としての役割が期待される一方で、公正な価格形成市場の不在が課題として指摘されている 18

3.3.3 政府の政策対応

米価高騰に対する政府(農林水産省)の対応も、市場動向に影響を与えた。

  • 初期対応の遅れ: 価格が高騰し始めた当初、農林水産省は「全体としての需給は逼迫していない」との見解を示し 2、備蓄米の放出には慎重な姿勢を維持していた 9。この背景には、備蓄米放出による米価下落が生産者所得に悪影響を与えることへの懸念や、あくまで備蓄米は深刻な供給不足時に用いるべきという原則論があったと考えられる 9。しかし、この慎重姿勢が結果的に市場の不安感を増幅させ、価格高騰を助長したとの批判もある 4

  • 備蓄米放出への方針転換: 価格高騰が長期化し、社会的な影響が広がる中で、政府は方針を転換。2025年1月には備蓄米の運用ルールを見直し、流通円滑化を目的とした放出も可能とした 9。そして同年2月、約21万トンの備蓄米を市場に放出することを決定した 9。これは、平時の価格安定を目的とした備蓄米放出としては異例の措置であり、従来の政策スタンスからの転換点と捉えることができる 37。放出は3月から入札形式で開始され 9、その後も夏場の端境期に向けて、切れ目ない供給を行うため、毎月の放出が計画された 40

  • 放出条件の影響: 放出された備蓄米の購入者には、将来的に同量の米を買い戻して国に返還する義務が課せられる場合がある 41。この「買い戻し条件」は、短期的な供給増にはなるものの、中長期的には市場の需給バランスに中立的な影響しか与えない可能性があると指摘されている 37

このように、政府の初期対応の遅れは、長年の生産者保護(価格維持)を重視する政策思想と、消費者保護(価格安定)との間のジレンマを反映していた可能性がある。備蓄米放出という介入策は、短期的な市場沈静化を狙ったものであるが、その効果や持続性、そして今後の米政策の方向性に影響を与える重要な決定であった。

3.4 要因の複合的影響

結論として、「令和の米騒動」は単一の原因ではなく、複数の要因が連鎖し、相互に影響し合った結果として発生した。

  1. 構造的要因: 長年の減反政策による供給調整で、需給バランスの「遊び」が少ない状態にあった 2

  2. 直接的トリガー: 2023年夏の猛暑による品質低下と精米歩留まり悪化が、実質的な供給量を減少させた 2

  3. 需要サイドの圧力: ポストコロナの経済活動再開とインバウンド急増による外食・業務用需要の増加 1

  4. コストプッシュ: 肥料・燃料価格の高騰が生産コストを押し上げ、価格の基調を上昇させた 6

  5. 市場心理と行動: 一時的なパニック買い 1、在庫水準の低下 18、流通業者や生産者の投機的な動き(買い占め・売り惜しみ)4 が価格上昇を加速させた。

  6. 政策対応: 政府の初期対応の遅れと、その後の備蓄米放出という介入 9

これらの要因が複合的に作用したことで、米価は前例のない水準まで高騰するに至ったのである。

4. 専門家の予測と今後の展望

米価格の高騰がいつまで続き、どのように収束していくのかは、消費者、生産者、関連事業者にとって最大の関心事である。ここでは、研究機関、政府機関、業界団体などの見解を基に、今後の価格動向を展望する。

4.1 専門家の見通しと予測

複数の専門家や機関が、今後の米価格動向について分析と予測を発表している。

  • 短期的な見通し(2025年春~夏): 政府による備蓄米の放出(2025年3月開始)が、短期的な価格緩和に寄与するとの期待があった。専門家の中には、放出された備蓄米が比較的安価で市場に出回れば、早ければ2025年4月から5月にかけて小売価格が下がり始める可能性があると指摘する声もあった 9。実際に、備蓄米の第1回入札(3月中旬)では、平均落札価格が相対取引価格よりは低い水準(税抜60kgあたり21,217円)となり、一定の価格抑制効果が期待された 9。しかし、夏場の新米が出回る前の端境期 40 までは、根本的な供給不足感が解消されにくいため、価格が大きく下がることは考えにくいとの見方が大勢であった。備蓄米放出の効果は限定的、あるいは一時的なものに留まる可能性も指摘されていた 37

  • 中期的な見通し(2025年秋~2026年): 価格動向の鍵を握るのは、2025年(令和7年)産米の収穫であるという点で、専門家の見解はほぼ一致している 3。農林水産省の意向調査によると、2025年産の主食用米作付面積は、前年実績比で+2.3万ヘクタール(約12万トンの増産見込み)と、4年ぶりの水準まで拡大する見通しである 11。これは、価格高騰を受けて生産者の増産意欲が高まっていることを反映している 11。この増産計画通りに、天候に恵まれ、質・量ともに十分な収穫が得られれば、2025年秋以降、市場への供給量が増加し、需給バランスが改善に向かう。これにより、米価格は下落・安定化の方向へ進むと予測されている 3。一部の専門家は、豊作となった場合には一時的に供給過剰となり、価格の安定化が2026年初頭にかけて加速する可能性も指摘している 9。ただし、価格が2024年の高騰前の水準まで完全に戻るかについては、後述するコスト要因などから不透明であり、安定化には2026年までかかる可能性も示唆されている 9

  • 長期的な見通し(2026年以降): 短中期的に価格が安定したとしても、日本の米市場は構造的な課題を抱えている。全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)が策定した「米穀流通2040ビジョン」では、現在のトレンドが続いた場合の悲観的なシナリオとして、国内の米需要量が2040年には375万トンまで減少し、国内生産可能量(363万トン)を下回る、すなわち国産米だけでは需要を賄えなくなる可能性が示されている 23。これは、人口減少と高齢化、食生活の変化による1人あたり消費量の減少が続くという予測に基づいている 23。一方で、同ビジョンでは、輸出拡大や新たな需要創出により、2040年の需要量を700万トン超に維持・拡大するという野心的なシナリオも提示している 43。長期的な米価と需給の安定は、こうした需要動向と、それに対応する生産体制、そして政府の政策(生産調整の見直し、輸出支援、需要喚起策など)に大きく左右されることになる 22

以下の表は、主要な情報源からの米価格に関する中期的な見通しをまとめたものである。

表3:米価格の見通し(2025年後半~2026年)


情報源/専門家

予測される傾向

時期

主要な前提条件/要因

出典例

三菱総合研究所 (MRI)

高騰前の水準に落ち着く可能性が高い

2025年秋以降

2025年産米が需要量を満たす水準で生産され、流通の混乱が沈静化すること

3

三菱総合研究所 (MRI)

価格安定化には十分な供給が必要

2025年8月 (24年産出揃い) / 2025年9月~11月 (25年産)

市場に十分なコメが供給されること

37

小川真如助教 (宇都宮大学) (記事中)

秋に供給過剰となり、価格が落ち着く可能性

2026年4月上旬頃から

2025年産作付面積増、生育順調

9

農林水産省 (需給見通し)

需給は安定する見込み

2025年産

適正生産量 (683万トン) が確保され、端境期在庫も確保されること

45

専門家全般 (記事中)

2025年産米の収穫後に価格が落ち着くとの見方が多い

2025年秋以降

2025年産米の豊作 (量・質ともに)

(複数記事より合成)

4.2 今後の価格を左右する要因

上記の予測は、いくつかの重要な変動要因に左右される。

  • 2025年産米の収穫状況: これが最も決定的な要因である 3。作付面積は増加傾向にあるが 11、夏の天候(気温、日照、降水量、台風など)が収穫量と品質を大きく左右する。特に、再び猛暑による品質低下が起これば、価格の安定化は遅れる可能性がある。

  • 生産コストの動向: 肥料価格はピーク時よりは低下したものの、依然として高水準にある 27。燃料価格も、国際情勢や為替変動の影響を受けやすく、先行きは不透明である 32。生産コストが高止まりすれば、たとえ供給量が増えても、米価の下落幅は限定的となり、高騰以前の価格水準には戻らない可能性がある。これは、価格の「下方硬直性」をもたらし、以前よりも高い価格帯が「ニューノーマル」となるシナリオを示唆する。

  • 需要の動向: 国内の食生活の変化による長期的な消費減少トレンド 23 は続く可能性が高い。一方で、インバウンド需要は2025年も引き続き好調と予測されており 49、特に2025年の大阪・関西万博はさらなる需要増をもたらす可能性がある 53。外食・中食需要の動向も注視が必要である。これらの需要要因が供給増をどの程度上回るか、あるいは下回るかが価格に影響する。

  • 政府の政策: 備蓄米の追加放出の有無や規模、2025年産以降の生産目標や支援策(水田活用交付金など 21)、さらには2027年以降に見直しが検討されている米政策全体の方向性 22 など、政府の政策判断が市場の需給バランスや価格形成に影響を与える。特に、今回の価格高騰を受けて、安定供給と価格安定への配慮がより強まるかどうかが注目される。

  • 国際市況と輸入動向: 国産米の価格高騰を受けて、民間による輸入米(主に業務用)が増加する動きも見られた 9。国内価格が高止まりする場合、関税を考慮しても輸入米の価格競争力が高まり、国内需給への影響力を持つ可能性がある。世界の米需給も、主要生産国の天候や輸出政策によって変動するため 48、間接的に日本の市場心理に影響を与える可能性もある。

4.3 総合的な展望

専門家の予測と影響要因を総合的に勘案すると、日本の米価格は2025年秋以降、需給緩和に伴い安定化に向かう可能性が高い。その鍵を握るのは2025年産米の作柄であり、豊作となれば価格の下落ペースは加速するだろう。しかし、生産コストの高止まりや堅調な一部需要(インバウンド等)を考慮すると、価格が高騰前の水準まで完全に戻るには時間を要し、2026年以降になる可能性が高い。また、構造的に高いコストが定着し、以前よりもやや高い価格水準で安定するシナリオも十分に考えられる。

5. 地域別分析:新潟県(長岡市)の状況

全国有数の米どころである新潟県、特にその中核都市である長岡市周辺の状況は、今回の価格高騰の影響や今後の展望を地域レベルで考察する上で重要である。

5.1 新潟県における価格動向

新潟県内の米価格も、全国的な高騰傾向と軌を一にしている。県内のJA(越後さんとうなど)や米穀店、スーパーマーケットで販売される米価格は、2024年から2025年にかけて大幅に上昇した。

例えば、2025年初頭の報道によると、三条市下田産のコシヒカリ5kgが4,600円、県育成品種の新之助5kgが4,800円、魚沼産コシヒカリに至っては5,700円といった価格で販売されており、消費者が購入をためらうほどの高値となっている 41。長岡市周辺の生産者直売サイトなどでも、令和6年産の特別栽培コシヒカリ玄米30kgが18,000円台後半 56、精米5kgが送料込みで3,900円 57、自然栽培米では5kgで5,000円を超える価格 58 が見られるなど、高品質米を中心に高価格帯での販売が常態化している。

長岡市内の生産者も、肥料・農薬、梱包資材などのコスト上昇を受け、価格改定を余儀なくされている状況がうかがえる 59。さらに、価格高騰への対応策として、大手スーパーが新潟市内の店舗で、県産米よりも1,000円ほど安いアメリカ産米とのブレンド米の販売を開始したことは 40、米どころ新潟においても消費者の価格負担感が大きいことを示している。

5.2 新潟県の生産状況と対応

価格高騰を受け、新潟県の生産現場でも対応の動きが見られる。

  • 増産意向: 農林水産省の調査によると、新潟県は2025年産主食用米の作付面積を前年実績よりも拡大する意向を示した19道県の一つである 11。これは、高価格を背景とした増産意欲の表れと考えられる。

  • 生産者の懸念: 一方で、長岡市の生産者からは、価格の乱高下に対する戸惑いの声も聞かれる 60。JA越後ながおかなどが参加するJAグループ新潟は、2025年2月に生産者などを対象とした集会を開き、令和5年産米の集荷量が大幅に低下した現状などを説明した 61。この集会では、今後の増産による価格の大幅下落を懸念する声も上がっており 61、生産者が市場の変動リスクに直面している状況がうかがえる。これは、主要産地の生産者が、高値による増産インセンティブと、増産競争による将来的な価格暴落リスクとの間で難しい判断を迫られていることを示している。

  • 地域独自の取り組み: 長岡市では、農業の労働力不足解消や技術継承を目指し、スマート農業(スマートアグリ)の普及を推進しており、地元企業からの農業DX機器の寄贈なども行われている 62。また、地域ブランド「山古志産コシヒカリ」56 や、市の中山間地域で生産された農産物を認証する新たな地域ブランド創設の動き 63 など、付加価値向上による収益確保の取り組みも見られる。

5.3 全国トレンドとの比較

現状、新潟県の米価動向や生産者の反応は、全国的な傾向と大きく乖離しているわけではない。価格高騰、コスト圧力、そしてそれに対応する形での増産意向という流れは共通している。米どころであるが故に、高品質ブランド米(魚沼産、長岡産コシヒカリ、新之助など)の価格動向は注目されるが、一般的な銘柄についても全国と同様の価格上昇圧力にさらされている。ブレンド米の導入 40 は、価格感度が高い消費者が一定数存在することを物語っており、これは全国的な傾向とも一致する。

むしろ、新潟県のような主要生産地における生産者の増産意向と、同時に存在する価格下落への懸念 61 は、全国の米需給と価格の将来を占う上で重要な示唆を与えている。主要産地が一斉に増産に踏み切った場合、天候次第ではあるが、2025年秋以降の需給緩和と価格安定化が現実味を帯びる一方で、過剰生産による価格暴落のリスクも生産者サイドでは意識されているのである。

6. 歴史的比較:平成の米騒動(1993年)との対比

今回の「令和の米騒動」を理解する上で、過去の類似事例、特に1993年(平成5年)に発生した「平成の米騒動」との比較は有益な示唆を与える。

6.1 平成の米騒動(1993年)の概要

1993年の米騒動は、記録的な冷夏に見舞われたことが直接的な原因であった 2。全国的な日照不足と低温により稲の生育が著しく阻害され、同年の水稲作況指数は74という歴史的な大凶作となった 2。これにより、米の供給量は前年比で30%以上も激減するという、深刻な「量的」供給ショックが発生した。

当時の日本には、現在の政府備蓄米制度はまだ確立されていなかった 19。そのため、政府は緊急措置として、タイなどから外国産米(主に長粒種のインディカ米)を大量に輸入して不足分を補おうとした 19。しかし、食味の異なる輸入米は消費者の不評を買い、また、スーパーマーケットの店頭から米が消える事態が頻発し、パニック的な買いだめも発生した 19。この経験が教訓となり、1995年に食糧法が改正され、政府による米備蓄制度が本格的に導入されることとなった 19

6.2 令和の米騒動(2024-2025年)との比較

両者を比較すると、類似点と相違点が見えてくる。

類似点:

  • 価格高騰と供給不安: いずれも米価が急騰し、市場に供給不安が広がった。

  • 社会的影響: 「米騒動」という呼称が使われるほど、社会的な関心と影響が大きかった。

  • 政府の介入: 政府が市場に介入する措置(平成:緊急輸入、令和:備蓄米放出)が取られた。

  • 構造的背景: 両時期ともに、減反政策による生産調整が行われており、供給の柔軟性が低いという構造的な背景があった 2

相違点:

  • 主たる原因: 平成の騒動は、冷夏による全国的な「量的」大凶作が主因であった 2。一方、令和の騒動は、猛暑による「質的」な問題(精米歩留まり低下)が初期トリガーとなり 2、それに需要回復、コスト上昇、市場要因などが複合的に作用した結果である。令和の初期供給ショックの規模は、平成ほど壊滅的ではなかった。

  • 備蓄制度の有無と役割: 平成時には本格的な備蓄制度がなく、緊急輸入が主な対応策だった 19。令和時には備蓄制度が存在したが、その放出タイミングや目的(価格安定への利用)について議論が生じ、当初は放出に慎重な姿勢が見られた 9

  • 需要環境: 平成時は、現在よりも1人あたり米消費量が多い時代であった。令和の騒動は、長期的な国内消費減少トレンドの中で発生したが、短期的な需要回復やインバウンド需要増という新たな要因が加わった 1

  • 情報環境: 令和時代はインターネットやSNSの普及により、情報(あるいは不確かな情報)が瞬時に拡散しやすく、市場心理や消費行動に与える影響がより大きかった可能性がある。

6.3 歴史からの教訓

平成の米騒動と令和の米騒動を比較することで、以下の教訓が浮かび上がる。

  • 供給安定性の重要性: 国民の主食である米の安定供給は、食料安全保障の根幹であり、その脆弱性が露呈すると社会的な混乱を招く。

  • 備蓄の意義と運用: 適切な量と質の備蓄を維持することの重要性。また、その運用(放出基準やタイミング)については、平時からの明確なルールと、状況に応じた柔軟な判断が求められる。

  • 生産調整政策の功罪: 長年の減反政策は、価格維持には貢献したかもしれないが、予期せぬ供給ショックに対する耐性を弱め、価格変動リスクを高めた側面がある 2

  • 複合リスクへの備え: 米危機は、単なる天候不順(量・質)だけでなく、コスト、需要変動、市場心理、政策判断など、複数の要因が絡み合って発生しうる。

  • 情報開示とコミュニケーション: 不安を煽らないための、正確かつ迅速な情報開示と、政府・生産者・流通業者・消費者の間での冷静なコミュニケーションが重要である 65

特に注目すべきは、米危機のトリガーが、平成の「量的な大凶作」から、令和の「質的な劣化」へと変化した点である。これは、気候変動(猛暑)の影響がより顕在化している可能性を示唆しており、今後の米生産においては、収量だけでなく、高温耐性など品質を維持する技術や品種改良の重要性が増していることを示している 34。また、令和の騒動では、供給ショックだけでなく、コスト、需要、市場行動、政策といったシステム全体の要因が複雑に絡み合っており、今後のリスク管理においては、より多角的な視点が必要となることを示唆している。

7. 結論:価格収束への道筋と残された課題

「令和の米騒動」と称された今回の米価格高騰は、2023年夏の猛暑による品質低下を契機とし、構造的な供給制約、生産コストの上昇、需要の回復、市場参加者の行動、そして政策対応の遅れといった複合的な要因が絡み合い発生した。

7.1 価格安定化へのタイムライン

分析結果と専門家の見通しを総合すると、米価格の収束に向けたタイムラインは以下のように予測される。

  • 2025年後半: 2025年産米の作付面積拡大意向 11 を踏まえ、天候が平年並みに推移すれば、秋の収穫以降、市場への供給量が増加し、需給バランスは改善に向かう。これにより、価格は明確な下落・安定化局面に入ると予想される 3。政府による備蓄米放出 9 も、端境期の需給緩和に一定の効果を発揮する可能性があるが、その影響は限定的かつ一時的と見られる 37

  • 2026年: 価格の安定化はさらに進むと考えられる。豊作となれば、価格下落が加速する可能性もある 9。しかし、高騰前の水準まで完全に戻るかは不透明である。特に、上昇した生産コスト 29 が価格の下支え要因となり、以前よりもやや高い価格帯で安定する可能性も否定できない。本格的な安定には2026年までかかるという見方も有力である 9

7.2 主要な不確実性要因

この見通しには、いくつかの重要な不確実性が存在する。

  1. 2025年の天候と収穫: 最大の不確定要素である。再び猛暑や冷夏、台風などの異常気象に見舞われれば、増産計画が達成できず、価格の高止まりが長期化するリスクがある。

  2. 生産コストの動向: 肥料・燃料価格が再び高騰すれば、価格安定化のペースは鈍化する。国際情勢や為替レートの変動から目が離せない。

  3. 需要の変動: インバウンド需要が予測以上に伸びる、あるいは国内消費の回復が続く場合、供給増の効果が相殺される可能性がある。

  4. 政府の政策判断: 今後の生産調整方針、備蓄米の運用方針、輸入政策などが市場に与える影響は大きい。特に、農林水産省が検討している2027年以降の米政策の見直し 22 の内容は、長期的な市場構造を変える可能性がある。

  5. 市場心理: 一度不安定化した市場心理は、些細なきっかけで再び動揺する可能性がある。冷静な情報判断と行動が引き続き求められる 65

7.3 長期的な示唆と課題

今回の米価格高騰は、短期的な市場の混乱に留まらず、日本の米政策や食料安全保障のあり方について、いくつかの長期的な課題を浮き彫りにした。

  • 米政策の見直し: 長年の減反政策がもたらした供給の硬直性や、価格維持と安定供給のバランスについて、本格的な見直しが迫られている 2。需要に応じた生産体制への移行、生産性の向上、多様な担い手の育成などが課題となる。

  • 食料安全保障の再考: 国内生産の重要性が再認識される一方で、コスト増や担い手不足という現実の中で、どの程度の自給率を、どのような方法(備蓄、輸入との組み合わせ等)で維持していくのか、戦略的な議論が必要となる。民間輸入の増加 40 は、その議論に新たな視点を与える。

  • 気候変動への適応: 猛暑による品質低下が顕在化したことで、高温耐性品種の開発・普及や、栽培技術の改善といった気候変動への適応策の重要性が一層高まっている 34

  • 流通・価格形成の透明性: 流通経路の多様化や市場参加者の行動が価格変動を増幅させた可能性も指摘されており、より透明で公正な価格形成メカニズムの必要性が問われている 18

7.4 最終評価

「令和の米騒動」は、2025年産米の供給増によって収束に向かう可能性が高い。しかし、この経験は、日本の米セクターが抱える構造的な脆弱性(政策、コスト、気候変動感受性)を露呈させた。価格は緩和に向かうと予想されるものの、生産コストの上昇などを背景に、以前よりもやや高い水準で安定する可能性も考慮すべきである。今回の危機を教訓とし、より強靭で持続可能な米の生産・供給システムを再構築していくことが、今後の重要な課題となる。その道筋は、2025年の天候と、今後の政策判断に大きく左右されるであろう。

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  60. 【特集】コメの価格の高騰と争奪戦はいつまで続くのか “揺れる”農家《新潟》 - YouTube, 4月 30, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=4schRjlRhqI&pp=0gcJCdgAo7VqN5tD

  61. コメの供給・価格安定へ…JAが生産者などに現状説明「集荷量は大幅に低下」 生産量増で価格の大幅下落を懸念する声も | 新潟ニュース NST, 4月 30, 2025にアクセス、 https://news.nsttv.com/post/20250204-00000012-nst/

  62. 2025年04月16日 岩塚製菓が稲作農家を応援! - 長岡市, 4月 30, 2025にアクセス、 https://www.city.nagaoka.niigata.jp/shisei/cate02/blog/20250416-1.html

  63. 2025年03月31日 地域の農産物を新ブランドに - 長岡市, 4月 30, 2025にアクセス、 https://www.city.nagaoka.niigata.jp/shisei/cate02/blog/20250331-1.html

  64. 平成米騒動の顛末とその対策について, 4月 30, 2025にアクセス、 https://ypir.lib.yamaguchi-u.ac.jp/bg/573/files/135868

  65. コメ価格はいつ下がる?「令和のコメ騒動」の背景と今後の展望 野村證券ストラテジストが解説, 4月 30, 2025にアクセス、 https://www.nomura.co.jp/wealthstyle/article/0305/

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