双極性障害(躁うつ病)を、仏教的アプローチで“悪化させずに”軽減する
双極性障害(躁うつ病)を、仏教的アプローチで“悪化させずに”軽減する
――治療の代替ではなく、再発予防と日常安定を支えるセルフケア
はじめに:この記事の立場(必ず確認してください)
双極性障害(いわゆる躁うつ病)は、気分の波が「性格」ではなく「病相(エピソード)」として現れ、生活・睡眠・対人関係・判断力を大きく揺らしうる疾患です。基本は**薬物療法(気分安定薬など)と心理社会的治療(心理教育、生活リズムの調整、再発予防)**で、これが回復の土台になります。各国ガイドラインでも維持療法と心理教育の重要性が繰り返し強調されています。
この記事で扱う「仏教的アプローチ」は、治療の置き換えではありません。
“症状を消す修行”ではなく、日常の安定を支える安全なセルフケアとして整理します。
特に重要な注意があります。
双極性障害では、瞑想や修行が合う人もいますが、やり方を間違えると躁転(躁状態への移行)や精神症状の増悪につながり得る報告があります。禅やヨーガ由来の瞑想の後に躁病エピソードが出た症例報告もあります。
したがって本記事は一貫して「安全設計(短時間・身体接地・睡眠最優先・過度な内省を避ける)」を前提にします。
1. 双極性障害とは何か:ポイントは「うつ」より「躁(軽躁)」の管理
双極性障害は大きく、躁状態(あるいは軽躁状態)とうつ状態が反復する疾患です。気分が上がる局面は“調子が良い”と誤認されやすい一方で、次のようなサインが重なると危険度が上がります。
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睡眠欲求が減る(寝なくても平気、むしろ眠れない)
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思考や会話が加速する(アイデアが止まらない、話が飛ぶ)
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活動性・衝動性が上がる(浪費、過密スケジュール、性行動、対人衝突)
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怒りっぽさ・被刺激性が強くなる
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進むと誇大、ときに**精神病症状(妄想など)**を伴うこともある
ガイドラインは、双極性障害の評価・治療において病相(躁、軽躁、うつ、混合、急速交代など)を見立て、維持療法で再発を防ぐことを重視します。
2. 仏教的アプローチの“使いどころ”:三学(戒・定・慧)をセルフケアに翻訳する
仏教をセルフケアとして整理すると、核は次の3つです。
戒(かい):生活を整える規律=再発予防のエンジン
「善悪」ではなく、病相を動かす条件(睡眠・刺激・物質・人間関係)を整えるという意味で最も実用的です。
定(じょう):心を落ち着かせる訓練=ただし“深くやりすぎない”
集中の深掘りや長時間修行は、双極性障害ではリスクになり得ます(後述)。ここでは短時間・身体接地を原則にします。
慧(え):見立て・気づき=「巻き込まれ」を減らす
思考や感情を「事実」ではなく「現象」として扱い、反応の連鎖を弱めます。現代心理療法(マインドフルネス、ACTなど)が狙うところとも重なります。
3. エビデンスの現在地:マインドフルネスは“補助療法”として研究されている
双極性障害では、薬物療法だけでも再発が多いことから、補助的な心理療法が研究されてきました。MBCT(マインドフルネス認知療法)はその一つで、双極性障害に対しても検討が進んでいます。レビュー論文では、関連領域での有効性を背景に双極性障害への応用が議論されています。
一方で「効果はまだ決定的ではなく、大規模研究が不足」といった慎重な整理もあります。
結論としては、仏教的実践(マインドフルネス等)は
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うつ期の反芻や不安、ストレス反応の軽減
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再発予防の自己管理(早期サインの察知)
に役立つ可能性がある一方、 -
躁転リスクや過覚醒
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内省の深掘りによる不安定化
には十分注意、という位置づけが現実的です。
4. 最重要:双極性障害で「瞑想」を安全にする4原則
原則1:睡眠を削らない(最優先)
双極性障害では睡眠リズムの乱れが病相の引き金になり得ます。生活リズムの安定を重視する治療(IPSRT:対人関係・社会リズム療法)も、概念として「社会的リズムの乱れ」が再発につながる点を強調します。
修行・徹夜・早朝の過度な座禅は避けるのが原則です。
原則2:長時間やらない(短いほど安全)
双極性障害では「深い集中」「没入」が過覚醒を助長する場合があります。20秒〜3分の短時間を基本単位にします。
原則3:身体接地を優先(“頭の中”から降りる)
呼吸が合わない人もいます。足裏、手のひら、姿勢、重さなどの感覚を使い、現実に接地します。
原則4:高揚を増やす実践を避ける
速い呼吸法、強い観想、刺激の強い唱和、合宿型リトリートなどは避けます。瞑想後に躁状態が出た症例報告がある以上、「安全側」に倒すのが合理的です。
5. 状態別:仏教的セルフケアの具体策(躁・うつ・混合)
ここからが実務です。双極性障害は「今どの相か」でやることが変わります。
A) うつ状態のとき:目標は「反芻を止める」より「体を現実に戻す」
うつ期は、思考が「自分責め」「絶望」「過去の反芻」に吸い込まれやすい。ここで重要なのは、立派な悟りではなく、次の3点です。
1) ラベリング(念:サティの簡易化)
頭の中の文章を追わず、タグを付けます。
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「反芻」
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「自己否定」
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「不安」
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「絶望」
例:
「もうダメだ」が回り始めたら → 「絶望、反芻」
内容を検討し始めたら → 「分析、分析」
目的は正誤判定ではなく、巻き込まれの停止です。
2) 30秒グラウンディング
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足裏を床に押し当てる(10秒)
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手のひらをこすって温度を感じる(10秒)
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背中の接地、椅子の硬さを感じる(10秒)
これを「できた日」を勝ちにします。うつ期は量より継続です。
3) 慈悲(メッタ):自分への言葉を“現実的”に
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「安全でありますように」
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「今日を越えられますように」
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「必要な助けにつながれますように」
うつ期に「前向きに」ではなく、「安全・最低限の維持」に寄せると続きます。
B) 躁・軽躁のとき:目標は「止める」ではなく「下げる」
躁(軽躁)期は勢いがあり、本人には“快調”に感じられることがあります。ここで仏教的に重要なのは、中道=ブレーキの倫理です。
1) 早期サインを“縁起(条件)”として扱う
仏教の縁起は「原因探し」ではなく「条件の連鎖の把握」です。躁の入口は、だいたい次の順で来ます。
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睡眠が減る
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予定が増える
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連絡が増える(投稿、電話、買い物)
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イライラが増える
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判断が荒くなる
この「連鎖」を書き出し、入口で対処するのが最も効果的です。IPSRTも生活リズムの安定を再発予防の中核に据えています。
2) “冷ます”ための身体接地(1分以内)
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目線を下げる
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肩を落とす
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足裏で床を感じる
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「速い」「熱い」「上がってる」とラベリングして終える
長くやらないこと。躁期の「集中」は燃料になり得ます。
3) 戒(生活のブレーキ)を具体ルール化
躁期は気合いよりルールです。例:
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21時以降はSNS投稿しない
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大きな買い物・契約は48時間保留
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予定は「増やさず、減らす」
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カフェイン・酒は原則避ける
こうした“自分の決め事”は、ガイドラインでも重視される心理教育(再発兆候の理解と対処)と整合します。
C) 混合状態・焦燥が強いとき:セルフケアより「早めの相談」
混合状態(気分の高揚と抑うつが混ざる等)は、衝動性が上がりやすく危険度が高いことがあります。この状態では、内省系の実践は不安定化し得ます。主治医・支援者へ早めに連絡を優先してください。双極性障害の管理は病相ごとの治療選択が前提です。
6. 毎日の実践メニュー:最小で回る「3分設計」
朝(1分)
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足裏接地30秒
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今日のルールを一つ確認(例:睡眠優先、予定を増やさない)
昼(1分)
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ラベリング10回(思考が来たらタグを付けて終える)
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水を飲む/姿勢を整える(身体に戻る)
夜(1分)
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手のひらの温度10秒
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慈悲フレーズ20秒
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明日の起床時刻を固定(夜更かし対策)
この程度でも「病相を動かす条件」を整える意味があり、積み上げになります。
7. 「やってはいけない」仏教実践(双極性障害では特に)
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徹夜修行、極端な早起き(睡眠が崩れる)
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合宿型・長時間リトリートを単独で(不安定化に気づきにくい)
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強い呼吸法・強い観想・刺激の強い唱和(過覚醒の恐れ)
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断薬して瞑想一本にする(再発リスクが大きい)
瞑想が躁状態を誘発・増悪したとする報告がある以上、「できる/できない」ではなく「安全に管理できる範囲で」が原則です。
8. 危機サインと相談先(日本)
次のサインがある場合は、仏教的セルフケアより先に医療・支援につながってください。
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2〜3日、睡眠が大きく崩れる(短時間睡眠が続く)
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浪費・攻撃性・衝動性が上がる
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希死念慮、命令的な声、現実検討の低下
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「止まらない」「危ない」と周囲が感じるレベル
厚労省の案内に掲載されている主な電話相談
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#いのちSOS(ライフリンク)0120-061-338(24時間365日)
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よりそいホットライン 0120-279-338
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そのほか窓口一覧(厚労省「まもろうよ こころ」)
緊急で生命の危険が高いときは、迷わず 119 です。
おわりに:双極性障害における“仏教的アプローチ”の本当の価値
双極性障害で最も効く仏教的アプローチは、「悟ること」ではなく、次の3つです。
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戒:生活と刺激を整えて、波を起こす条件を減らす(睡眠・予定・物質・SNS)
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慧:早期サインを“縁起”として察知し、入口で止める
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定:短時間・身体接地で、過覚醒や反芻の連鎖を切る
そして、心理教育や生活リズムの安定が再発予防に重要だという見立ては、国際ガイドラインや治療モデル(IPSRT等)とも整合します。

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