アクション作家志望のための必読ロードマップ
アクション作家志望のための必読ロードマップ
——大藪春彦/竹島将/伴野朗/門田泰明/菊地秀行で“戦える”物語筋肉をつける
やあ、名編集・あやこだよ。
「銃声一発で読者の視線を奪う」タイプの作家になりたい? なら、今回は日本アクション小説の主砲級5人から“何を盗むか”を徹底的に分解していく。単なる作品紹介でなく、技術抽出→練習ドリル→即・自作反映の三段ロケットでいくぞ。
この記事の狙い(3行カンタン版)
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大藪・竹島・伴野・門田・菊地の武器庫を開ける
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語彙・構図・スピードの“再現可能な部品”にまで分解
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読了後すぐ1シーン書き換えるためのドリルを渡す
アクション小説の“OS”って何?(共通基礎)
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視線誘導:主語と動詞で“カメラ”が走る。形容詞は後衛。
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三段加速:〈発見〉→〈決断〉→〈突入〉の三文でギアを上げる。
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力学のリアリティ:反動、弾速、慣性、重量。嘘はOK、嘘の一貫性は必須。
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敵の“論理”:悪役が賢いほど、主人公の一手が“物語の知性”になる。
このOSを頭に入れて、5人の武器をピックアップしていこう。
1) 大藪春彦——日本式ハードボイルドの骨太テンプレ
代表作キーワード
『野獣死すべし』『蘇える金狼』『汚れた英雄』。孤狼の反逆者 vs 組織、徹底した身体訓練と兵装、現実社会への怨念を推進力に変える。日本ハードボイルドの先駆者の一人だ。 ウィキペディア
何を盗む?
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動詞主導の文体:撃つ/蹴る/裂く——動作が先、説明は後。
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反復で硬質なリズム:練習→銃器→資金→計画…積み木式の準備描写が加速の下地に。
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“個”が“組織”を穿つ設計:弱点は〈規模〉ではなく〈意思決定の遅延〉に置く。
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アンチヒーローの倫理:正義ではなく一貫性で読者の信頼を取る。
推しの読み順(最短で効く)
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『野獣死すべし』:孤狼プロファイルの雛形。デビュー作で強度MAX。 ウィキペディア
10分ドリル
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逆算設計:ラストの“破壊”から逆算して、必要資源・訓練・偽装を20語で列挙。
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動詞縛り:200字で“射撃訓練”。名詞・形容詞を半減、一文一動詞を徹底。
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敵の遅延表:敵組織の意思決定が遅れる理由を3つ(合議/稟議/面子)→ここを刺す作戦を一行で。
2) 竹島将——空と火と汗、超加速の“クライシス”
代表作キーワード
「ファントム勇者伝説」(『ファントム強奪』〜『ファントム蒼空戦線』全7巻)。元自衛隊パイロットが、国際謀略と空戦の渦に突っ込む。講談社ノベルス→文庫に流れ、1作目はOVA化も。 講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ+1ウィキペディア
何を盗む?
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兵器=感情の延長:飛行機・銃器のスペックを“心の速度”で語る。
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“空間の段取り”力:空戦は高度差・ベクトル・地形の三点で描け。
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チーム・アクション:主人公単独では解けない局面を役割分担で突破。
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見せ場の周期:30〜50行ごとに“視覚ギミック”(低空掠め・逆噴射・失速→再始動)を置く。
推しの読み順
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『ファントム強奪』:導入最適。事件の起点・敵の格がわかる。 講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ
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『人質空中奪還』:チーム戦の段取り教科書。
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『戦慄の女神』『ファントム蒼空戦線』:美学の極まる終盤の加速。 ウィキペディア
10分ドリル
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空間スケッチ:A4に平面図+断面図で舞台を書き、高度・風向・遮蔽物を3色で描く。
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加速度の語彙帳:引き起こす/失速する/ねじ込む——運動動詞を15語ストック。
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45秒ルール:クライマックスのカット割りを10コマ漫画風に(文字数各45字上限)。
3) 伴野朗——国際謀略×記者目線、情報が火薬になる
代表作キーワード
『五十万年の死角』(第22回乱歩賞)、『傷ついた野獣』(第38回日本推理作家協会賞)ほか。新聞記者・海外特派員の視線で、地政・歴史・経済をアクションに翻訳。日本冒険作家クラブの創設発起人でもある。 ウィキペディア
何を盗む?
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“現場の湿度”:地名・温度・匂い・通貨・新聞見出し——報道のディテールで臨場感を即席製造。
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仮説→検証→破壊:情報の“重み”がアクションの“衝撃”に変わる三段。
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史実の“脇道”活用:本筋と並走する歴史のショートカットで広がりを演出。
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敵の“顔が見える”陰謀:黒幕の**利害(地位・資金・弱み)**を可視化。
推しの読み順
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『五十万年の死角』:受賞作でリズムと設計を見る。 ウィキペディア
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『傷ついた野獣』:人間の裂け目が炸裂点になるお手本。 ウィキペディア
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『上海スクランブル』『ゾルゲの遺言』:国際アクション×歴史情報の合金。 ウィキペディア
10分ドリル
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報道見出し→事件核:実在ニュースの見出しを3本並べ、**共通“名詞”**を核にして1事件に統合。
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利害チャート:主要5人の損得表を作り、誰が沈むと誰が浮くかを線で結ぶ。
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時系列裏返し:真相時系列→露見順の並び替えで“どんでん返し”を仕込む。
4) 門田泰明——“過剰”を制御するプロ、シリーズ量産の設計術
代表作キーワード
「特命武装検事・黒木豹介(黒豹)」シリーズ、暗殺者村雨龍、修羅王ドラゴン(暗殺者・弘瀬龍)、外科医・津山慶子ほか。医学・企業・捜査・武装アクションが高速レーベル駆動で量産される世界。 ウィキペディアカーリル
何を盗む?
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“肩書き×武器”=即戦力キャラ:〈武装検事〉〈特命狙撃手〉などラベルで強さを伝える。
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見世物の配電盤:銃撃/爆破/肉弾/官能/医療——見せ場ジャンルを配電盤のように回す。
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章頭クライマックス法:章頭から“危機の途中”に落として読者の把持力を最大化。
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シリーズの可換性:事件の入口(企業/病院/政治)を差し替えても中盤構造を固定化。
推しの読み順
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**黒豹シリーズ(黒木豹介)**の初期作で設計を読む→
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暗殺者村雨龍/修羅王ドラゴンで暴力演出のバリエーション→
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外科医・津山慶子で医療スリラーの装置を見る。 ウィキペディア
10分ドリル
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肩書き作成:主人公の肩書きを名詞2+名詞1(例:特命+武装+検事)で3案。
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章頭落下:いきなり走行中の銃撃へ。最初の60字に人物名・場所・危険を三点盛り。
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配電盤リスト:見せ場カテゴリを5種→章ごとにオン/オフを割り振り、過剰と不足を調整。
5) 菊地秀行——伝奇・SF・ホラーを“アクションで食わせる”
代表作キーワード
『魔界都市〈新宿〉』(デビュー)、『魔界都市ブルース』、**『吸血鬼ハンターD』他。ゴシック×ウェスタン×サイバーが同居し、剣戟・銃撃・超能力が高速度で交錯。 ウィキペディア
『吸血鬼ハンターD』はダンピールの“D”**が闇の貴族と戦う長寿シリーズで、ホラー×アクション×SFの合金世界観が後続に大影響。 ウィキペディア
何を盗む?
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比喩のファイアパターン:一行で世界を“黒光り”させる艶のある比喩。
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ルールより“絵”優先:まず殴り合いの絵が立ち、その後で理屈が追う。
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名乗りの快感:固有名(Dr.メフィスト等)で**“立ってくる音”**を演出。
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人外のスケール:人間の感情×超常の威力差を無慈悲に描くことで、主人公の一手が“詩”になる。
推しの読み順
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『魔界都市〈新宿〉』→**『魔界都市ブルース』**の初期短編で“語りの速さ”に慣れる。
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『吸血鬼ハンターD』1〜数冊で“絵の立て方”を体得。 ウィキペディア+1
10分ドリル
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黒い名詞帳:闇/霜/月蝕/硝子煙…黒系イメージ語を20個。
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名乗り台詞:敵味方それぞれ8字以内の二つ名を作り、一言で“格”を立てる。
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映像化意識:一枚絵(止め絵)説明を150字で。背景・光源・影の向きまで指定。
横断でわかる“アクション設計・部品表”
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大藪:〈孤狼〉×〈準備の反復〉×〈個vs組織〉=手の内の見せ方が冷徹。
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竹島:〈空間段取り〉×〈兵器=感情〉×〈チーム戦〉=運動の快感で読ませる。
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伴野:〈報道の湿度〉×〈仮説の破壊〉×〈地政〉=情報が爆薬になる。
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門田:〈肩書き武器〉×〈章頭落下〉×〈シリーズ可換性〉=商業速度で回す。
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菊地:〈比喩の艶〉×〈名乗り快感〉×〈人外スケール〉=画角の暴力で魅せる。
7日×4週=28日 “アクション筋トレ”カリキュラム
1日30〜45分、仕事や学校の合間に回せる設計。
1週目:ハードボイルド基礎(大藪)
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Day1『野獣死すべし』冒頭→動詞縛りで300字模写。 ウィキペディア
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Day2 準備描写の名詞列挙を10アイテム→反復文で並べ替え。
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Day3『蘇える金狼』章頭を遅延なき導入に書換。 ウィキペディア
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Day4『汚れた英雄』レースの力学メモ→自作へ移植。 ウィキペディア
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Day5-6 自作1話(1200字)個vs組織で。
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Day7 推敲:一文一情報ルールで軽量化。
2週目:空戦・危機管理(竹島)
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Day8『ファントム強奪』を平面図+断面図に変換。 講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ
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Day9 “高度・風・遮蔽”を書き込んで行動計画作成。
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Day10 10コマカット割り(各45字)。
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Day11-12 自作にチーム戦導入。
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Day13 運動動詞を本文に20個以上投入。
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Day14 読みやすさ検査:主語の迷子を潰す。
3週目:謀略・情報戦(伴野)
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Day15 『五十万年の死角』で利害チャート作成。 ウィキペディア
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Day16 3ニュース統合→事件核1個。
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Day17-18 自作へ偽情報→検証→破壊の三幕を移植。
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Day19 取材メモ風**三行法(事実/感情/小結)**で3エピソード。
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Day20-21 既稿を時系列裏返しに再配置。
4週目:量産構造&伝奇加速(門田/菊地)
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Day22 肩書き3案→章頭落下で200字。 ウィキペディア
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Day23 配電盤を作り、見せ場のオン/オフを設計。
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Day24 『魔界都市〈新宿〉』→黒い名詞帳20語作成。 ウィキペディア
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Day25 『吸血鬼ハンターD』で名乗り台詞を磨く。 ウィキペディア
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Day26-27 自作の頂上決戦を書き切る(1500字)。
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Day28 全体推敲:**視線誘導(主語と動詞)**点検。
代表作の“買い方・読み方”TIPS
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旧版でもOK:とくに大藪・門田はレーベル横断で版が多い。タイトルが重なる場合は出版社・年で検索。 映画.com
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装置をメモる:銃・車・飛行機・医療手順・地政——名詞帳に“固有名”で保存。
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版元ページは情報の宝庫:竹島の講談社ページは刊行年・装丁・シリーズ順がまとまってて便利。 講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ+1
よくある詰まりと対処(編集の現場で見たやつ)
Q. 情報量を盛るとテンポが死ぬ…
A. “戦闘中は動詞のみ/間奏で名詞”。運動中は説明禁止のルールを自分に課す。
Q. 敵がバカに見える…
A. 敵の利害チャートを先に作れ。敵の最適行動を潰すために主人公は“反則ぎりぎり”を選ぶ。
Q. シリーズ化のコツ?
A. 入口の多様化×中盤の固定化。導入は変え、捜査・潜入・裏切りの中盤骨格を固定して回す(門田式)。 ウィキペディア
Q. 伝奇で世界観説明が長い…
A. 菊地式で**“名乗り→見せ場→あとから理屈”**。一枚絵が立てば勝ち。 ウィキペディア
5人の“即使える”文体テンプレ(コピペ改造OK)
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大藪型(孤狼侵入)
「——今だ。彼は息を一つ、壁に体重を預け、滑る。指先が触れる、ロックが外れる。照明は戻らない。」 -
竹島型(空間段取り)
「北風三メートル。低い雲底。滑走路の端で彼は翼端を傾け、敵編隊の影の角度を見る。」 -
伴野型(情報→衝撃)
「中央銀行の会見が二分遅れた。その間に、港のトラック五台が税関を抜けている。」 -
門田型(章頭落下)
「バン! 硝煙が医局の白壁を汚した。銃身を下げたのは、特命医療捜査官だ。」 -
菊地型(名乗りと艶)
「“Dr.メフィスト。診察だ” 黒い風が廊下を舐め、灯りが一本ずつ沈む。」
参考リンク(事実確認のよりどころ)
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大藪春彦:日本ハードボイルドの先駆者、代表作(『野獣死すべし』『蘇える金狼』『汚れた英雄』)。 ウィキペディア
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『野獣死すべし』の来歴(初出・映画化の歴史)。 ウィキペディア
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竹島将『ファントム強奪』ほかシリーズ情報(講談社)/OVA情報。 講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ+1ウィキペディア
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伴野朗の受賞歴・経歴(乱歩賞・推理作家協会賞/冒険作家クラブ)。 ウィキペディア
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門田泰明の主なシリーズ一覧(黒木豹介=黒豹、暗殺者村雨龍、修羅王ドラゴン、外科医・津山慶子等)。 ウィキペディア
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菊地秀行の代表作・デビュー作/吸血鬼ハンターD概要。 ウィキペディア+1
しめ:撃てる文体は“設計”で作れる
アクションは“速く書く”ジャンルじゃない。速く読ませるために、遅く設計するジャンルだ。
今日の宿題はこれだけ——
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5人のうち今の自作に一番足りない刃を選ぶ
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推し作品を30分だけ読み、本文から動詞・名詞・見せ場を各10個抜く
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ここで配ったドリル1個だけやる
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自作の一場面を300字だけ差し替える
それだけで“弾道”は変わる。
次の原稿、読者の瞳孔、確実に開かせようぜ。
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